冨野に聞け!

「30歳を過ぎても独身であることは変なのでしょうか?」
埼玉県 ポリビタンBさん(30歳)
 私は30歳で独身の男です。
平日は会社員として働きつつ、休日はビデオでアニメを見たり、
下手イラストを描いたりして、自分の趣味に没頭する生活をしております。
 しかし30歳になっても独身でいると、両親が結婚しろとうるさくて困ります。
「早く結婚しろ」
「年をとってから世話をしてくれる人がいなくなるぞ」
「外国人でも良いから結婚しろ」
とまで言うのです。
 結婚とは自分が愛するものと、共に暮らしたいからするものであり、老人になったときの保証のためにするものではないと考えます。
 そもそも、結婚には利点よりは欠点の方が多い。妻子の生活費のために自分の小遣いは減るし、子供の教育など、自分より家族を優先しなければならない。そうした欠点に対する利点は、愛するものと共に暮らせること、ただ1点のみ。よほど自分の恋い焦がれた相手でもない限りは、結婚に利点を見いだせません。
(中略)
ところが、両親には自分の考えを告げると
「子供っぽい自分勝手な理屈だ!」
といって激怒するのです。
 冨野監督は以前このコーナーで
「人間の生き方には、多様性がある。いろんな人生があっていい」
と語っておりました。私の結婚に対する考え方は、両親の言うように
「子供の自分勝手な理屈」
に過ぎないのでしょうか?
どうかご意見をお聞かせ下さい。

 僕にはポリビタンBさんが文面で書いている考え方が全く間違っている、とはとうてい言い切れません。しかし、
「子供を得て家庭を営む」
ということが、ポリビタンBさんが考えているほど
「我慢をして悔いが残るもの」
なのでしょうか。
 ポリビタンBさんが、ものすごく偏った根拠から
「結婚しなくていい」
という結論を導き出している部分があるのも気になります。それは自分が結婚しなくても良い理由だけを挙げていて、パートナーを見つけることで成功した人、結婚して子供が生まれたことで幸せになって人たちが世の中にはいっぱいいると言うところを語ってない、というところです。これは30歳という年齢の人たちが自分の存在を正当化するために極めてよくやることです。対論を聞かないことで自分の存在を認めて欲しいという考え方は、非常に偏った考え方を導きますから気をつけてください。
 ポリビタンBさんがどのような容姿なのか、対人関係においてどのくらいフレキシビリティーを持っているのかは不明ですが、自分の決定的な欠点を見つめないで、独身主義を貫こうとしているような気配もあります。まず、世の中にいる中年以上のカップルを観察してみて下さい。そうすれば、明らかにあなたより風采のあがらない多くの人たちが幸せな家庭を形成している、ということに気づくことでしょう。自分の容姿を理由にして結婚を否定するのは、実を言うと基本的に狭いと言うことです。それは対人関係を成立させようという意識がない、かなりわがままな発想だからです。
 そして何より、ポリビタンBさんは結婚に関して大変な勘違いをされています。
「愛があって結婚する」
と書いてありますが、結婚は愛のためににするんじゃありません。<生き抜くため>にするのです。
「愛があるから結婚する」
という発想が成立するのは、日本中が都市化して、さらに日本の平和な経済システムが永久に存在することを大前提にした場合です。今の日本の社会は、たまたまコンビニに象徴されるように独りで暮らしていける構造になっているだけで、これがもしちょっと経済的、環境的な苦境に立たされたとき、1人で暮らしていくことはかなり難しいでしょう。おそらくポリビタンBさんは大病にかかったことがないから、簡単に老後のこともやっていけるようなことを書けるのだと思いますが、例えば風邪で3日寝込んでラーメンも食べられないような状況の中で、温かいミルクを作ってくれるパートナーの存在は、僕は暮らしの中で圧倒的に重要であると考えます。
 それなりの年齢を重ねて生活をしていくには、男と女がカップルになり生活を営むということが基本的な原則なのに、今はそのあたりのトレンディドラマやコミック、アニメの悪い影響で「愛」が先に無ければ結婚してはいけないというファンタジー……つまり「嘘」に囚われすぎています。愛というのは、言ってしまえば近代人が作った妄想で、恋愛と結婚は行為としては全く別物です。考えてみれば、昔の人たちは
「家の都合で」
「親の言いなりで」
「食うに困って」
結婚するケースが多く、おそらく「愛」という感情を重要視した結婚は極めて少なかったはずです。しかし、そんな風潮の中でカップルになった夫婦が死ぬまで不幸だったかというと、そんなケースはむしろ少なかったのでしょうか?
 そしてもうひとつ、ポリビタンBさん自身が、ご両親の結婚があったからこそ生まれたと言うことを考えてみて下さい。長い人類の歴史で、概ねの人が結婚し、子供を産み育てていています。ということは、その行為には何らかの意味があるはずです。その意味は個人個人みんな違いますし、その結果―結婚したことで、もしくは子供が生まれたことで不幸になった人というのもいるでしょうが、様々な結婚や子育てがあったおかげで今日の我々が存在しているわけです。その今までの経緯は無駄ではなかった、という考え方もあることをを理解してもらいたいのです。